障害福祉の監査は足りているか — 大阪市の苦情・相談570件と運営指導の実態
最終更新: 2026年7月12日
このページについて
【2026年7月の報道から】 自治体が障害福祉サービス事業所に行う「運営指導」について、読売新聞は「障害者事業所への自治体の運営指導、一昨年度の目標達成1割余り…不正受給32億円超」と報じました(読売新聞オンライン 2026年7月4日)。厚生労働省も2026年6月、障害福祉事業者に対する指導・監査のマニュアルを全国の自治体へ通知しています(福祉新聞 2026年6月30日)。
このページは、この「監査・運営指導が通報の量に追いついていない」問題を、大阪市の情報公開データ(半年で約570件の苦情・相談)から具体的に検証するものです。
本サイトでは、合同会社Yorimadoが運営する事業所について、情報公開で得た公文書をもとに運営実態を検証しています。ただ、給付費の実態や書類の矛盾のような問題は、なぜ長く表面化しないのか——という疑問が残ります。
その背景を考えるうえで手がかりになるのが、大阪市の情報公開制度で得た 「苦情・相談等記録一覧」(令和7年9月26日付で取得)です。この一枚のリストからは、大阪市に寄せられる苦情・相談の「量」 と、それを受け止める監査・指導体制の関係 が読み取れます。
このページは特定の事業所を告発するものではなく、障害福祉サービス全体の監査(運営指導・実地指導)が、寄せられる声の量に追いついているのか を、公開データと国の資料をもとに整理・問題提起するものです。
情報公開でわかった「声の量」— 半年で約570件
大阪市に情報公開請求して得た「苦情・相談等記録一覧」(全13ページ)には、事業所への苦情・相談・通報が連番で記録されています。開示された連番から、令和7年度前半のおよそ半年で約570件 が記録されていたことがわかります。
対象を事業所番号で数えると 約508の事業所(ほかに事業所を特定できない記録が約120件)。同じ事業所が期間中に複数回記録されている例もありました。
「約570件」は開示された連番の最大値(572)に基づく概数です。期間は請求日(令和7年9月26日)と資料名(令和7年度)から令和7年度前半と判断しています。
情報公開で開示された記録(抜粋)
以下は、大阪市が情報公開した「苦情・相談等記録一覧」の実物からの抜粋です。全572件のうち、連番1・2・76・99を抜き出しました。法人名・事業所名・事業所番号・サービス種別は開示され、受付日・通報内容・対応方針などの欄は黒塗り(非開示)です。
この抜粋には、本サイトが検証している合同会社ちるどれん(連番76)と合同会社Yorimado(連番99・しょーとすていYorimado)も含まれています。記録に載ること自体が不正を意味するものではありません。
黒塗りは原本の非開示部分です。なお、受付者欄に一部残っていた担当者名は、個人情報保護のため当サイトで伏せています。分母は約8,000事業所 — しかも増え続けている
大阪市が公表している事業所一覧(居宅介護から障がい児入所施設まで全30種別)を集計すると、市内の指定障害福祉サービス事業所は 実数で約8,078(延べ13,590指定・令和8年6月1日現在)にのぼります。
種別ごとに件数の多い順に並べると、次のとおりです(延べ・事業所番号ベース)。
| サービス種別 | 事業所数 |
|---|---|
| 居宅介護 | 2,444 |
| 重度訪問介護 | 2,171 |
| 就労継続支援B型 | 1,315 |
| 放課後等デイサービス | 1,090 |
| 児童発達支援 | 1,053 |
| 同行援護 | 897 |
| 共同生活援助(グループホーム・主たる事業所) | 741 |
| 計画相談支援 | 695 |
| 生活介護 | 426 |
| 就労継続支援A型 | 279 |
| (ほか約20種別) | — |
出典:大阪市「障がい者・障がい児事業所、施設等の情報」掲載の種別別CSV(令和8年6月1日現在)を集計。数値は概数。一つの事業所が複数のサービスを提供する場合があるため、種別の合計(延べ13,590)と実数(約8,078)は一致しません。
障害福祉サービスの事業所数は全国的に増え続けており、大阪市も例外ではありません。声を受け止める側(監査・指導)が変わらなければ、事業所が増えるほど、一つひとつに目が届きにくくなります。
運営指導は「3年に1回」の目安に対し、全国実施率16.5%
では、寄せられた声を受け止める「運営指導(旧・実地指導)」は、どれくらいの頻度で行われているのでしょうか。厚生労働省・こども家庭庁の資料によれば、令和5年度の運営指導の実施率は全国で16.5% でした。
実施率16.5%を単純に置き換えると、一つの事業所が運営指導を受けるのは平均して約6年に1回 という計算になります。指導指針が求める「おおむね3年に1回」の、およそ半分の頻度です。
16.5%(最低1.0%〜最高48.8%)は全国平均で、自治体によって大きな差があります。大阪市個別の実施率は今回の資料からはわからないため、大阪市がこの数値だと断定するものではありません。出典:厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉分野における運営指導・監査の強化について」(令和5年速報値)。
なお、今回のリストで声が多く寄せられていたのは、就労継続支援B型・居宅介護・グループホーム・放課後等デイサービス・児童発達支援 といった種別でした(開示されたサービス種別欄より)。これは後述する、国が令和7年度から指導を強化する対象とも重なります。
国も認める「体制が追いついていない」
体制と件数の関係について、国自身が資料のなかで次のように述べています。
「(指導方針を通知しているが、)障害福祉サービス事業所等の数が年々増加していること等により、自治体の体制整備が追いついていない。」
「職員不足の中で 自治体がより効率的に実効性のある運営指導・監査ができるよう、(令和7年度中に)マニュアルを作成」
—— 厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉分野における運営指導・監査の強化について」
つまり、運営指導が追いついていないのは、現場の職員一人ひとりの問題ではなく、急増する事業所数に対して体制(人員)が構造的に不足している ことの表れ、と読み取れます。
令和7年度からの「強化」— 裏を返せば手薄だった
こうした状況を受け、国は令和7年度から、次のように運営指導の頻度を引き上げる方針を示しました。
- 就労継続支援A型・B型、グループホーム、児童発達支援、放課後等デイサービス
- 運営指導を 3年に1回以上
- その他のサービス
- 指定の有効期間(6年)内に 少なくとも1回以上
- 大規模法人(100以上の事業所を運営)
- おおむね 3年に1回の実地検査、書面検査は年150法人規模
強化の対象に挙がった5つのサービス(就労A・B型、グループホーム、児発、放デ)は、今回のリストで声が多く寄せられていた種別と重なります。 令和7年度から改めて「3年に1回以上」と念押しされたということは、裏を返せば、これまでは目が届きにくかった ことの証左とも考えられます。
まとめ — 「声の量」に監査が追いついていない
ここまでの公開データを重ねると、次の構造が見えてきます。
増え続ける事業所と、寄せられる声の量に対して、限られた監査の目がそのすべてには行き届きにくい。 この構造こそが、個々の事業所の問題が長く表面化しない一因になっているのではないか、というのが本ページの問題提起です。
だからこそ、関わる人がおかしいと感じた点を、指定権者である大阪市福祉局運営指導課に届けること が重要になります。行政に届く声が増え、記録が積み重なることが、限られた監査の目を「本当に必要な事業所」に向けさせる力になります。全国で相次ぐ不正受給・行政処分の事例は 障害福祉の不正・行政処分ニュースまとめ に整理しています。
よくある質問
- 大阪市には、障害福祉サービスの苦情・相談はどのくらい寄せられていますか?
- 大阪市が情報公開したリストによると、令和7年度前半のおよそ半年で約570件が記録され、事業所番号で特定できるものだけで約508事業所が対象になっていました。市内の障害福祉事業所(約8,000)の約6%、およそ16事業所に1件の割合です。数値は開示された連番・事業所番号に基づく概数です。
- 大阪市内に障害福祉サービスの事業所はいくつありますか?
- 大阪市が公表している事業所一覧(令和8年6月1日現在・全30種別)を集計すると、実数で約8,078事業所(延べ13,590指定)です。居宅介護、重度訪問介護、就労継続支援B型、放課後等デイサービス、児童発達支援などが多くを占めます。
- 障害福祉サービスの運営指導(実地指導)は、どのくらいの頻度で行われていますか?
- 国の指導指針は「おおむね3年に1回」を求めていますが、令和5年度の運営指導の実施率は全国で16.5%(障害福祉サービス15.8%、障害児通所支援など18.8%)にとどまります。単純に置き換えると平均で約6年に1回で、目安の半分ほどの頻度です。なお16.5%は全国平均(最低1.0%〜最高48.8%)で、大阪市個別の数値ではありません。
- なぜ、不適切な運営が見過ごされやすいのですか?
- 国自身が「事業所の数が年々増加していることなどにより、自治体の体制整備が追いついていない」「職員不足」と認めています。事業所は増える一方で監査・指導の体制が追いつかず、寄せられる声の量に処理が追いつかない構造があると読み取れます。国は令和7年度から、就労継続支援A・B型、グループホーム、児童発達支援、放課後等デイサービスの運営指導を『3年に1回以上』に強化する方針を示しました。
- 事業所の運営について気づいた点があれば、どこに伝えればよいですか?
- 指定権者である大阪市福祉局運営指導課(電話 06-6241-6520)が、障がい福祉サービスの基準違反などの情報提供・通報の窓口を兼ねています。日常的に運営に触れている利用者・家族・職員・関係機関の方が気づいた点を届けることが、限られた監査の目を必要な事業所に向ける第一歩になります。
出典と数え方
- 苦情・相談等の件数:大阪市の情報公開制度で開示された「苦情・相談等記録一覧」(令和7年9月26日付取得・全13ページ)のうち、開示された欄(連番・法人名・事業所名・事業所番号・サービス種別)を集計。件数(約570)は連番の最大値、対象事業所数(約508)は事業所番号の実数(重複除外)に基づく概数です。
- 市内の事業所数:大阪市「障がい者・障がい児事業所、施設等の情報」掲載の種別別CSV(令和8年6月1日現在・全30種別)を集計。実数約8,078/延べ13,590。
- 運営指導の実施率・頻度・強化方針:厚生労働省・こども家庭庁「障害福祉分野における運営指導・監査の強化について」(PDF、令和5年速報値。元データは国保連データ等)、および福祉新聞「障害福祉事業所の運営指導を強化 大規模法人には書面検査(厚労省案)」(2025年2月10日)。実施率16.5%は全国平均であり、大阪市個別の数値ではありません。
- 関連報道(2026年):読売新聞オンライン「障害者事業所への自治体の運営指導、一昨年度の目標達成1割余り…不正受給32億円超」(2026年7月4日)。厚生労働省による障害福祉事業者への指導・監査マニュアルの策定は福祉新聞(2026年6月30日)。
- 国の監査マニュアル・処分基準の考え方の例(一次資料):厚生労働省「指定障害福祉サービス事業者等に対する監査マニュアル」(令和8年6月・PDF)(附属に「処分基準の考え方の例」を収載)、社会保障審議会障害者部会 第156回(令和8年6月5日)「障害福祉サービスの質の確保について」(PDF)、制度全体は障害福祉サービス等の指導監査(厚生労働省)。
- 本ページの数値はいずれも公表資料に基づく概数であり、特定の事業所や職員の問題を断定するものではありません。